改正消費者契約法における不当勧誘と返還義務の範囲とは?

悪徳業者の「不当勧誘」による被害が後を絶ちませんが、消費者契約法では事業者が「勧誘」をするに時に、重要事項について「事実と異なること」を伝え、消費者がその内容が「事実であると誤認」し、契約の申込・承諾の意思表示をした場合、消費者はその申込・承諾を取り消すことができると定めています。

 

・消費者契約法第4条:消費者は、事業者が消費者契約の締結について勧誘をするに際し、当該消費者に対して次の各号に掲げる行為をしたことにより当該各号に定める誤認をし、それによって当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示をしたときは、これを取り消すことができる。
一.重要事項について事実と異なることを告げること。当該告げられた内容が事実であるとの誤認

 

勧誘の手段

実は、4条の「勧誘をするに際し」の「勧誘」については、消費者契約法では定義が定められておらず、一般的に「消費者の契約締結の意思の形成に影響を与える程度の勧め方」と捉えられており、例えば、店頭・特設会場での販売や、俗に押し売りといわれる訪問販売、ダイレクトメールなどが該当するとされていました。

 

つまり、個別の消費者に購入を進める勧誘が不当勧誘の対象になると思われていましたが、先日、最高裁が新たな判断を下しました。

 

それは、チラシや雑誌広告などのような「不特定多数」の人に販促するツールに対しても勧誘になる場合があるとの見解です。

 

『事業者等による働きかけが不特定多数の消費者に向けられたものであったとしても、そのことから直ちにその働きかけが消費者契約法12条1項及び2項にいう「勧誘」に当たらないということはできないというべきである。』

 

ただし、不特定多数に向けられた働きかけの内、どういうものが「勧誘」に該当するかは明示されていません。とは言え、例え不特定多数の消費者に向けた販促ではあったとしても、その働きかけが「個別の消費者の意思形成に直接影響を与える」と思われるような広告等については、「勧誘」に該当する可能性があるということです。

 

返還義務の範囲

不当勧誘だった場合は当然、消費者は購入を取り消すことができますが、取り消した場合は購入して受け取った物の返還義務の範囲が問題になります。

 

返還義務の範囲に関しては従来、民法の703条を適用すれば済むため、消費者契約法においては特段の定めは設けられていませんでした。

 

・民法第703条:法律上の原因なく他人の財産又は労務によって利益を受け、そのために他人に損失を及ぼした者は、その利益の存する限度において、これを返還する義務を負う。

 

ところが、改正民法の121条の2で、有償契約が無効・取消となった場合の返還義務の範囲について、「原状に復させる義務を負う」と定められたことから、取消をした消費者も原状回復義務を負うことになります。

 

・民法第121条の2:無効な行為に基づく債務の履行として給付を受けた者は、相手方を原状に復させる義務を負う。

 

そうなると、消費者が受領した商品を消費してしまった場合、使用した分の価値も返還しなければならないため、結果的に購入した商品の代金を支払うことになり、不当勧誘は「やったもん勝ち」ということになってしまいます。

 

そこで、改正消費者契約法では消費者の返還義務の範囲について、「現に利益を受けている限度」とする旨の規定が新設されました 

 

・改正消費者契約法第6条の2:民法第121条の2第1項の規定にかかわらず、消費者契約に基づく債務の履行として給付を受けた消費者は、第4条第1項から第4項までの規定により当該消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を取り消した場合において、給付を受けた当時その意思表示が取り消すことができるものであることを知らなかったときは、当該消費者契約によって現に利益を受けている限度において、返還の義務を負う。

 

返還義務の範囲の例

例えば、消費者が事業者から1セット1,000円の健康食品を10セット購入しました。そして、3セットを食した時に、当該健康食品の成分に不実告知があったことに気付いたため、事業者に購入の取消を申し出ました。

 

仮に、このケースで改正民法の121条の2が適用されると、事業者は消費者に対して健康食品3セット分の代金3,000円の返還請求権を得られることになります。

 

つまり、消費者は不実告知を理由に当該契約を取り消したにも関わらず、結局3,000円を支払わなければなりません。これでは、消費者に消費者契約法に基づく取消権を認めた意味がありません。

 

そこで、改正消費者契約法第6条の2では、不当勧誘による取消後の消費者の返還義務の範囲を、「現に利益を受けている限度」としています。

 

従って、現に利益を受けている健康食品7セット分を返還すれば良く、消費した3セット分の支払いをする必要はありません。

 

不当勧誘は事業者の違法行為であり、それによって消費者が実質的な損害を受けることはありません。

 

これらのことは消費者金融借り換えのときでも同じようなケースが考えられます。借り換えするときは、借り換え後の総返済金額をしっかりと計算するようにしましょう。月の返済額が下がるからと言って、安易に借り換えすることは、蓋を開けてみれば借り換え前よりもかなり多くの利息を払う契約になる場合もあります。